昨年、過重労働による自殺という痛ましい事件が社会問題となり、「過重労働時間対策」が喫緊の課題となっています。職員の健康に配慮するのは会社の義務であり、重要なリスクマネジメントの一つです。政府も「働き方改革実行計画」をまとめ、その中の長時間労働対策の一つに「勤務間インターバル制度」を挙げています。
長時間労働による心身の健康障害が起きると従業員が定着しなくなるほか企業の信用に大きな傷がつきます。事前に対策を講じましょう。その対策の一つとして本制度の概要と留意点を解説します。

1.勤務間インターバル制度の概要

(1)概要
「勤務間インターバル制度」とは、前日の勤務終了時刻から翌日の勤務開始時刻までに一定の休息時間を設けて、社員の休息時間・睡眠時間を確保して健康障害を防止するほか、ワークライフバランスを改善しようとする制度です。
例えば、11時間のインターバル時間を設けた場合、深夜12時まで勤務したときは、翌日は午前11時から勤務を始める、という制度です。 

(2)わが国における現在の状況と今後の予定
わが国では、2009年の春闘(賃金交渉)の中で、情報産業労働組合連合会が、「インターバル制度の導入に向けた労使間協議を開始する」との方針を掲げたときから検討が始まった、といわれていますが、2015年の厚生労働省の調査(過労死等に関する実態把握のための社会面の調査研究事業・2016年3月)によると、この制度を導入している企業はまだ2.2%に留まっています。
なお、この制度は「働き方改革実行計画」のなかで努力義務になる予定ですが、本制度の導入を促進するため、本年4月から12月まで「職場意識改善助成金※」の中に「勤務間インターバル導入コース」を設けています。※この助成金の概要は厚生労働省のホームページを参照してください。

2.導入設計時の主な検討事項

(1)適用対象者の決定
業務上の理由から管理職を除いている例もありますが、労働契約法の「安全配慮義務」は全社員が対象になりますし、また、本制度を社内に定着させるためにも全社員を対象とすることが望ましいです。

(2)インターバル時間の設定
本制度を設計するに当たって重要なポイントが「インターバル時間数」です。前述の厚労省の調査によると下表のようになっています。

このように現状では7時間超8時間以下が最も多くなっていますが、「職場意識改善助成金」の「勤務間インターバル導入コース」では、対象となる休息時間が9時間以上になっていること、更に11時間以上の場合は助成金が増額されていることから「9時間」または「11時間」が目安になると思われます。

(3)インターバルで翌日の始業時間を超える場合の諸問題(労働時間・賃金の調整)対策
インターバル制度を導入すると、翌日、所定の始業時間を越えて始業することが増えることが考えられます。その場合の労働時間と賃金の取り扱いを決めておかなくてはなりません。
その方法としては以下の3つの方法が考えられます。

①始業時間・就業時間ともずらす
②始業時間はずらすが、終業時間はそのままにしてその日の所定労働時間を短縮する。
③フレックスタイム制と併用する。

➀始業時間・就業時間ともずらす
最も簡便な方法です。就業規則に「業務の都合により、就業時間を繰り上げまたは繰り下げることがある」という規定があれば問題ありません。ただし、インターバル制度の適用が慢性化すると始終業時間のずれが大きくなり、逆に深夜勤務が増えてしまう、という懸念も生まれます。

②始業時間はずらすが、終業時間はそのままにして、その日の所定労働時間を短縮する。
例えば、所定の始業時間が午前9時、終業が午後5時の場合でインターバルによって始業が11時になった場合でも終業時間は所定時間通りとするものです。すると、その日の所定労働時間が6時間になってしまいます。この場合の賃金をどうするか、という問題が生じます。労働契約は“ノーワークノーペイ”が原則ですから、短縮した時間数の賃金をカットすることもできます。しかし、いくら社員の健康維持が目的であっても、賃金カットする仕組みは社員から敬遠されることが考えられます。

③フレックスタイム制と併用する。
フレックスタイム制とは1か月以内の期間内の総労働時間を決めておき、社員はその時間の範囲内で各日の始終業時刻を自分で決める制度です。この制度を併用すれば、コアタイムがある場合には、その取り扱いを決めておく必要がありますが、➀②の問題はクリアできます。
注)フレックスタイムの清算期間は現在1か月以内ですが、より柔軟な運用ができるよう清算期間を3か月に延長することが検討されています。

(4)例外の取り扱い
ただし、業務は顧客との関係があって成り立っています。必ずしも自社の規定通りに運用できるとは限りません。例えば、翌日9時からの客先との打ち合わせのための資料作成がインターバルの時間を確保するための時間までに終わらないとき、その時間に終ったことにして仕事を続けることも考えられます。
このように、本制度を導入しても規定通り運用できないことも考えられますし、過重労働時間問題や“サービス残業”がなくなるわけでもありません。そのため、顧客の都合や緊急事態の発生時などの例外時の対策や制度濫用の防止策(例:適用を除外する場合の手続きやインターバルの回数の上限設定等)、さらには長時間労働そのものが続いたときの対策も検討しておかなくてはなりません。

3.まとめ
このようにインターバル制度は運用次第で有効な方法ですが、この制度やそのほかの方法で労働時間規制の枠組みを作るだけで、長時間労働の問題が解決するのではありません。解決しなければならないのは長時間労働そのものです。
したがって、まずやるべきことは、長時間労働や深夜残業の実態とその原因をよく把握することです。仕事のやり方、仕事の配分、人員配置、更に社員の能力等に問題がないか、探ってみましょう。
その原因分析と改善策、能力アップ策を社員と一緒に検討した上で本制度を活用し、「働きがいのある職場」「健康・安全な職場」を作っていきましょう。

島﨑高偉