第一回、第二回に引き続き、事業承継についてお話しして参りたいと思います。

第一回:事業承継の現状と対策の重要性について  
第二回:事業承継対策について
第三回:事業承継計画について

今回は第三回【事業承継計画について】です。

事業承継の形態が多様化し、20年前は親族内承継が9割でしたが、近年は親族外承継が約4割と増加傾向となっています。それに伴って、中小企業基本法等で取り掲げられた「事業承継の円滑化」を促進し、中小企業・小規模事業者の持続的発展を図る必要があります。そのための主な事業承継施策を紹介します。

(1)中小企業必見の自社株式、承継優遇措置
「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の概要
日本経済の基盤となるべき中小企業の経営承継は、雇用の確保や地域経済活力維持の観点からきわめて重要です。この中小企業が経営承継されないと、中小企業の持つ貴重な技術力やノウハウの散逸が懸念されます。そこで、中小企業の円滑な経営承継を支援する中小企業経営承継円滑化法が成立しました。

➀事業承継税制
現経営者から後継者に相続・贈与された自社株について、後継者の事業継続などを要件に相続税、又は贈与税の納付が猶予・免除されます。また、3代目経営者に対して再贈与を行う場合も贈与税の納税義務が生じないように税制が拡充されています。注)後継者は、親族内、親族外を問わず適用されます。

<主な適用要件>
・経営承継円滑化法に基づき都道府県知事の認定を受けること。
・相続税の申告期限以後、5年間平均8割の従業員数の雇用を維持すること等。

➁事業承継税制の概要

➂遺留分に関する民法の特例「自社株式を遺留分の算定基礎財産から除外」
後継者を含めた推定相続人全員の合意の上で、現経営者から後継者に贈与等された自社株式に一定の要件を満たしていることを条件に、遺留分の算定の基礎となる相続財産から除外するといった取り決め(除外合意)などが可能です。

➃経営承継円滑化法による金融支援「事業承継に必要な資金融資」
・日本政策金融公庫等の融資:後継者個人が株式取得資金などの融資を受けることができます。
・信用保証協会の保証枠の別枠整備:事業承継に係る資金は通常の保証枠とは別で信用保証を利用することができます。


(2)経営者の個人保証に関する課題を解決 経営者保証に関するガイドライン

経営者保証には、経営者への規律付けや信用補完として資金調達の円滑化に寄与する面があります。一方で、経営者保証に依存することにより、保証債務履行時にさまざまな問題(経営者の原則交代・不明確な履行基準・保証債務の残存等)が発生し、これが経営者による思い切った事業展開や早期の事業再生、円滑な事業承継等を阻害する要因ともなっています。
これらの課題解決のため、中小企業の経営者保証に関する契約時や履行時等における中小企業、経営者及び金融機関による対応についての中小企業団体・金融機関団体共通の自主的ルールとして、2013年に「経営者保証に関するガイドライン」が策定されました。

➀経営者保障 図解

➁経営者保障の解除に関する認知度アンケート結果

➂経営者保障に関するガイドラインの概要
<1>合理的な保証契約のあり方
1)経営者に求められる経営状況
 ・融資を受ける中小企業とその保証人である経営者個人の資産・経理が明確に分離されている。
 ・法人と経営者との間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えない。
 ・法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断し得る。
 ・法人から適時適切に財務情報が提供されている。
 ・経営者等から十分な物的担保の提供がある。
2)金融機関は、やむを得ず経営者保証を求める場合には、保証契約の可能性等について丁寧かつ具体的に説明することとし、また、保証金額を形式的に融資額と同額とするのではなく、保証人の資産・収入状況や主債務者の信用状況等総合的に勘案して設定すること。

<2>保証履行時の保証債務の整理手続
1)原則として法的債務整理手続(注1)は行わず、中小企業の主債務と経営者個人の保証債務を準則型私的整理手続(注2)により一体整理すること。
2)主債務について法的債務整理が行われる場合であっても、保証債務の整理に当たっては、原則として準則型私的整理手続を利用すること。
(注1)破産手続、民事再生手続、会社更生手続もしくは特別清算手続
(注2)中小企業再生支援協議会による再生支援スキーム、事業再生ADR、私的整理ガイドライン特定調停等利害関係のない中立かつ公正な第三者が関与する私的整理手続及びこれに準ずる手続

<3>経営者の経営責任の在り方
・金融機関は、上記<2>1)の場合において、一律に経営者交代は求めず、経営者が引き続き経営に携わることに経済合理性が認められる場合には、これを許容すること。

<4>残存財産の範囲
・金融機関は、保証債務の履行に当たり、保証人に一定の生活費等(従来の自由財産99万円に加え、年齢等に応じて100万円から360万円)を残すことや、華美でない自宅等に住み続けられるよう検討すること。

<5>その他
・金融機関は、一定の要件(注3)が充足された場合には、保証債務の一部履行後に残存する保証債務の免除に、誠実に対応すること。
・金融機関は、経営者保証に関するガイドラインによる債務整理を行った保証人の情報を信用情報登録機関に報告・登録しないこと。
(注3)保証人が自らの資力に関する情報を誠実に開示し、開示した情報の内容の正確性について表明保証し、表明保証した資力が事実に反した場合には、追加弁済する旨の契約を締結する等

【相談窓口】
(独)中小企業基盤整備機構の地域本部、最寄りの商工会、商工会議所または認定支援機関
(経営革新等支援機関)が、経営者保証に関するガイドラインについての相談を受け付けています。また、これらの相談窓口を通じて、専門家の派遣を申し込むことができます。

(3)ぜひとも検討したい 事業継承補助金
中小企業庁は、平成29年度予算「事業承継補助金」の公募を平成29年5月8日(月)から開始予定です。事業承継を契機とする経営革新など、後継者の新たな挑戦を支援します。

事業承継(事業承継再生を伴うものを含む)を契機として、中小企業が以下を実行する場合設備投資、販路開拓・依存事業の廃業等に必要な経費を支援する。
・経営革新等
・事業転換を行う 

「補助金上限」経営革新等=200万円、事業所の廃止や既存事業の廃止・集約を伴う場合は、廃業費用として300万円上乗します。(注)補助率の上限は経費の2/3です。

★補助対象となる事業や取組の内容、事業承継についての考え方は、以下のとおりです。
◆地域への貢献
・他社との取引関係や地域の需要に応える商品・サービスの提供、雇用の維持・創出によって地域に貢献している中小企業が対象です。
◆事業承継
・平成27年4月1日から、補助事業期間完了日(最長平成29年12月31日)までの間に事業承継(代表者の交代)を行った、または行う中小企業が対象です。
◆新しい取組として
・経営革新等
 ビジネスモデルの転換(新商品、新分野への挑戦等)による市場創出、新市場開拓 等
 新規設備導入(製造ラインのIT化、顧客管理システム刷新等)による生産性向上 等
・事業転換
 事業所の廃止や既存事業の集約・廃止 等

参考URL: http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2017/170501shoukei.htm

北川晴久
参考文献:
・中小機構「中小企業経営者のための事業承継対策」
・中小企業庁「会社を未来につなげる10年先の会社を考えよう」