前回レポートで、飲食業界はオーバーストア状態にあり、生き残りを掛けた激しい競争環境となっている、と申し上げました。しかしながら、一方で今時の消費者ニーズを上手くとらえ、時流に乗った“繁盛店”も続々と生まれているのが「飲食ビジネス」であるともお伝えしました。今回は、現在の“繁盛店”を通して、最新トレンドについてレポートします。
まず、最近の飲食消費動向として、着実に増加傾向にあるのが「家飲み」「ちょい飲み」と呼ばれる消費形態です。「家飲み」とは、まさに飲食店舗を利用せずに、1人あるいは仲間と“自宅でお酒と料理を楽しむ”消費形態であり、市場としては「外食」ではなく「中食」スタイルの消費になります。店を利用しない分、安上がりで帰宅時間や他の客なども気にせずに楽しめます。この消費の背景には、少子高齢化や単身者の増加が影響していますが、一方で市販されている“おつまみ商品”等の急速なレベルアップも大きな要因となっています。ご承知の様に、今やコンビ二で売られている“本格的おつまみ”の付加価値度は、飲食店で食する本格料理と何ら遜色ないレベルに達しています。その品揃えと1人でも手軽に食べられるコンパクト感は、「家飲み」消費にベストマッチしています。
もう一つは、「ちょい飲み」消費の増加です。「ちょい飲み」とは“会社帰りに少しだけお酒を飲みに行く”という消費形態です。最も関連性の高い「居酒屋市場」は、この影響を大きく受けており激戦化しています。日本では、高度経済成長期に“会社帰りの一杯”や“若者中心のコンパ”が大衆化し、「居酒屋市場」を急成長させ、街中にたくさんの店舗が誕生しました。しかしながら、長引く景気低迷、人口減少、少子高齢化の進展、企業社会の変革などを背景に、“会社帰りの一杯” の消費需要は急激に減少し、“若者の飲酒離れ”も進んでいます。まさに、「ちょい飲み」は、この変革期にマッチした需要と言えます。そしてこの需要を見据えて、他の飲食業態からの進出が加速化しています。今では、牛丼の「吉野家」、ファミレスの「ガスト」、中華の「王将」「日高屋」、イタリアンの「サイゼリヤ」など様々なチェーンが“アルコール飲料”とそれに見合う“おつまみ料理”をメニューに加えて、新しい需要獲得を図っています。
こうした環境下、消費者ニーズを時流トレンドにとらえ、急速に店舗展開を図っている“繁盛店”チェーンが、「低価格専門料理・居酒屋」とも言える、『鳥貴族』と『串カツ田中』です。両店の特徴は以下の通りです。
(1)『鳥貴族』
・昭和60年に「鳥貴族」1号店を大阪府東大阪市にオープン。現在約500店舗。メニュー価格は280円均一。国産食材にこだわり、鮮度の高い地鶏りを使用、お店で1本1本丁寧に“串打ち”、秘伝のタレが自慢の“ジャンボ焼き鳥(2本)”が目玉商品の「焼き鳥」専門業態。
(2)『串カツ田中』
・平成20年に「串カツ田中」1号店を東京都世田谷にオープン。現在約130店舗。大阪の伝統的なB級人気グルメ“串カツ”が目玉商品の専門業態。1本100~200円と大衆価格の“串カツメニュー”は常時30品以上。秘伝のレシピ、独自のソースや原材料で“串カツ”を差別化、大阪下町・大衆食堂の雰囲気の白いテント看板が特徴。
両店の共通項としては、①昔からあって人気の高い大衆料理に絞り込む、②安くて魅力的な「目玉商品」がある、③こだわり秘伝のタレやソースで差別化を図っている、④チェーン店としての「低価格化」を実現するため、スケールメリットを生かした食材仕入や調理オペレーションの効率化を徹底している、という点です。その結果、コストパフォーマンス(お客様満足度)が非常に高いものとなっています。
同様の事例としては、すでに“たこ焼き”の『築地銀だこ』が全国チェーンとして成功を収めています。この様にどんなに厳しい競争環境下においても、新しいニーズにマッチした“繁盛店”が生まれ、時代の動きに遅れたかつての“繁盛店”が消えるという、常に下剋上の状況にあるのが飲食業界であり、今後ともこうした動向の中で続いて行くのが「飲食ビジネス」であると言えます。
日向雅之